ETHGlobal Tokyoに日本を代表する企業が集結:今、企業とブロックチェーンエコシステムの融合により何が起ころうとしているのか? 後編
Enterprise Ethereum Stage
2023 年 4 月 13 日から 4 日間に渡って開催された ETHGlobal Tokyo ハッカソン。このイベントの中で、エンタープライズイーサリアムアライアンスジャパンが主催する「Enterprise Etherem Stage」が行われた。ブロックチェーンを活用したサービスやプロダクトを開発・提供している大企業、公的機関の開発者や研究者が一堂に会した歴史に残るブロックチェーンイベントとなった。
前編:ETHGlobal Tokyo に日本を代表する企業が集結:今、企業とブロックチェーンエコシステムの融合により何が起ころうとしているのか? 前編
サービスとして動き出したゲームとそれに続く音楽やアート
石井: 続いて「ゲーム・アート・音楽」をテーマにスクウェア・エニックスの畑さんとエイベックスの岩永さんとディスカッションできればと思います。それぞれの取り組みを紹介していただけますか?
- 株式会社スクウェア・エニックス ブロックチェーン・エンタテインメント事業部 事業部長 畑 圭輔
- エイベックス株式会社 テクノロジー顧問 岩永 朝陽
畑: 「資産性ミリオンアーサー」という IP を使ったコンテンツを NFT プロジェクトとして立ち上げていて、2021 年 10 月に第一弾の NFT デジタルシールを発売しました。現在まで 14 万枚もの NFT を販売・発行しており、2023 年 4 月にはデジタルシールを使ったゲームコンテンツをサービス内に統合する予定です。
また、新たにジェネレーティブアートという形で 1 万体ものキャラクターにスクウェア・エニックスが得意とするストーリーや世界観を組み合わせ制作、販売をするというプロジェクトを進めています。
岩永: 私は Web3 のアドバイザーとしてエイベックスに在籍しておりまして、2019 年から主にデジタルコンテンツに対してその所有権を保証する証明書サービス「ATrust」を展開しています。実際に音楽専門の NFT マーケットプレイス「The NFT Records」でも使用されており、さまざまなアーティストの NFT を発行しています。
また、デジタルコンテンツを構成する楽曲や画像・テキスト・3D モデル等のデジタルアセットの流通を促す契約システム「AssetBank」も展開していて、これまで版権管理が難しかったダンスモーションなどの NFT 化に向けた取り組みを行なっています。
株式会社 スクウェア・エニックス(Square Enix) ブロックチェーン・エンタテインメント事業部 事業部長。2012 年に株式会社 スクウェア・エニックス入社し、スマートフォン向けゲーム or コンテンツ開発におけるテクニカルディレクターとして従事。その後、各プラットフォーム関連の交渉、対外折衝などを担う業務部に異動、部門長を経験し、同時に同社初の NFT ビジネスとなる NFT デジタルシール「資産性ミリオンアーサー」を 2021 年にプロデュースし、現在に至る。
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石井: ブロックチェーン業界の中でも具体的に事業化が進んでいるのがゲームだと思っていまして、現在の市場の期待感、需要についてどう思われますか?
畑: すでにサービスを開始しているのが「資産性ミリオンアーサー」というデジタルステッカーですが、なかなかこれだけで事業化は難しいところがあります。実際コスト面でいうと釣り合わない現状があり、新たなマネタイズを検討しています。これまでのゲームは顧客に対し我々がゲームの利用権を貸し出すという形態だったものが、デジタル資産を購入する顧客がベースになる。そこに対する価値が、一番熱量の高いポイントだと思います。
エイベックス株式会社(Avex) テクノロジー顧問。1999 年よりシリコンバレーのベンチャー企業で EC サービスの立ち上げに参画。帰国後、日立にてシステム開発、ナスダック上場企業にて放送・VOD 関連のエンターテインメント事業でプロダクトマネージャーとして 9 年、さらに海外ゲームパブリッシングなどを経て、2019 年 4 月エイベックス株式会社 執行役員、2019 年 5 月エイベックス・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長に就任。 2022 年 6 月 24 日、 エイベックスを退任しシンガポールに居住を移し『 分散型エンターテイメント・エコシステム』の構築のため、 MetaSolare 「メタソレア」を設立。共同代表及び COO/Co-Founder として就任。
石井: 岩永さんは、現状の NFT に対する期待値や各アーティストの需要についてどう考えてますか?
岩永: インタラクティブでユーザー参加型のゲームに対して、音楽というコンテンツは受動的で NFT における期待値は大きく異なります。現状、ユーザーをどう巻き込みインタラクティブなコミュニティを作っていくのかチャレンジしているところですね。今注目しているのが海外で、リアーナが自身の楽曲の NFT を販売しました。限定的に保有するという NFT の思想とは異なりますが、ユーザーとしては非常にわかりやすく、収益を得るためにインフルエンサーとして楽曲を広めようとします。日本だと金融商品取引法に触れますが、今後こういった動きができるようになると面白くなっていくと思います。
河崎: スクウェア・エニックスさんといえばドラゴンクエストやファイナルファンタジーといった有名タイトルがありますが、その NFT の展開について予定はあるのでしょうか?
畑: まず、ブロックチェーンとの相性がいいのか考える必要がありますね。ユーザーがブロックチェーンや NFT に馴染みがあり、欲している状況であれば当然検討していきたいですが、一足飛びにはいかない状況です。既にファイナルファンタジーを使った NFT の発表はしていますが、ネガティブな意見もあり、ゲームユーザーにはあまり馴染みがない部分があります。
石井: ブロックチェーンが使われることでゲームの面白さがお金に置き換わってしまうというネガティブな意見もありますよね。
畑: ブロックチェーンの行き過ぎたビジネスには我々も懸念があります。純粋にブロックチェーンを使って面白い体験ができることを世の中に提唱していきたいという一心ですね。「資産性ミリオンアーサー」は NFT を持っていなくても無料で遊ぶことができます。そしてデジタルシールを作り、マーケットに出すことでお金が入ってきます。主婦の方がやっているポイント活動のようなものをゲームで体験することができるので、ゲーマーはもちろん、今までゲームをしたことがない層の人にも遊んでみてほしいです。
河﨑: 今後の Web3 コミュニティの在り方について岩永さんはどう思われますか?
岩永: Web3 のコミュニティというのは音楽業界でいうところのファンクラブ。ファンに向けて何か情報を発信するというところに対し、Web3 のコミュニティは一人ひとりが運営目線を持っているというのがこれまでにないポイントです。音楽業界の人たちからすると「常に楽しませなければならない」と思ってしまいますが、そんなことはなく「みんなで一緒に盛り上がっていこう」ということです。しかし、そこがなかなか機能しにくい部分でもある。コミュニティの中の人たちをどれだけ運営目線にすることができるかというところが 一番重要だと思います。
石井: コミュニティの体験をある程度コントロールしつつ、自律的に動かすという仕組みをどう作り上げるかが重要になるのかもしれませんね。
観光と地方創生のつながりと行政の動向
河﨑: 最後のパネルディスカッションでは「観光・地方創生・行政」をテーマにお話できればと思います。それぞれ取り組みをご紹介ください。
- 日本航空株式会社 事業創造戦略部 戦略・企画グループ アシスタントマネジャー 高橋 翔
- 株式会社博報堂 ビジネスプロデューサー 岸井 弘一
- デジタル庁 参事官 野崎 彰
- デロイト トーマツ合同会社 シニアマネジャー 川口 知宏
高橋: 我々は航空事業を軸にした会社ですので、直近のパンデミックを含め、影響が大きいビジネスです。新たなビジネスという部分をミッションに JAL グループの新規事業に取り組んでいます。
岸井: JAL の広告宣伝、マーケティングコミュニケーションをメインに務めています。今回の KOKYO NFT のプロジェクトにおいては、JAL のパートナーとして共に事業開発に取り組んでいます。
野崎: Web3 と AI を担当していて、昨年末にデロイトの川口さんと連携して「Web3 研究会報告書」を公開しました。
川口: Web3 やブロックチェーンのサービスが「車」だとすると、我々の取り組みは「道」を作っていますね。また、自分自身もクリエイトするという部分も重要だと思っていて、ビジュアルボイスのグローバルシネマ NFT の取り組みに開発から実用化の構想までの支援を行いました。
日本航空株式会社(Japan Airlines Co.,Ltd) 事業創造戦略部 戦略・企画グループアシスタント マネジャー(Business Creation Strategy Department Manager)。旅行会社向け予約・セールス、ロンドン支店総務を経て 2021 年 3 月より現職。
河崎: JAL で進められている KOKYO NFT のプロジェクトについて伺ってもいいでしょうか?
高橋: KOKYO NFT プロジェクトは、日本の地域にあるアセットを活用し、地域の関係人口を増やしていく試みです。現在、地域の人口減少は非常に厳しい状況です。それを我々の NFT を通じて地域のファーム、国内外の関係人口を増やしていき、最終的に地域の活性化につなげていくことを目指しています。我々が販売している NFT の一つは鹿児島県の奄美市を舞台にした NFT です。黒糖焼酎の蔵元と共同し、NFT ホルダーと一緒に焼酎を熟成させていく、という取り組みを行っています。
河崎: 一度きりの旅行ではなく、継続する関係性を作っていくうえでブロックチェーンの有用性があるということですね。
高橋: やはりコミュニティとの相性が重要です。人が何度も訪れるには理由が必要で、魅力的なアセットはもちろんのこと、一番重要なのは人との繋がりだと考えています。それによってより地域に対する愛は深まっていくと思っていて、今回、NFT をその手段として活用しました。
株式会社博報堂(Hakuhodo Inc.) ビジネスプロデューサー(Business Producer)。1995 年博報堂入社。人事、経営企画など管理部門を経て 2002 年より営業職、現在に至る。
河崎: 岸井さんは、地方自治体を巻き込んだ取り組みについてどう考えていますか?
岸井: なかなか巻き込みにくい現状ではあります。今回の実証実験で大事なプレイヤー、パートナーは自治体と地場の企業の二つ。すべての地方自治体の話をしているわけではないですが、やはりブロックチェーン、デジタルに関するリテラシーというのは理解が難しいものがあります。
デジタル庁(Digital Agency) 参事官(Counselor)。2000 年金融庁入庁。経済協力開発機構(OECD)シニア・ポリシーアナリスト、金融庁政策課総括企画官、同企業開示課開示業務室長、組織戦略監理官 兼 フィンテック室長を経て、内閣官房参事官 兼 デジタル庁参事官。
河崎: 政府での Web3 の盛り上がりや、昨年末に公開した Web3 研究会報告書について野崎さんの視点はいかがでしょうか?
野崎: 昨年 4 月に自民党がホワイトぺーパーを公開し「日本を Web3 立国にしていくぞ」という機運が高まりまして、それ以降政府においても健全な Web3 の発展や、環境整備について議論をしていくことになりました。特に Web3 のテクノロジーについては、トークンを使ってインセンティブを細かく設計できるという点で、今までにない人と人とのつながりが生まれるので、コミュニティの運営においても日本が抱えている社会問題を解決していけるのではないかと政府も期待しているところです。
デロイト トーマツ グループ(Deloitte Tohmatsu Group) シニアマネージャー Smart Finance / Web3・Blockchain。外資系コンサルティング会社の東京・マニラオフィス勤務を経て現職。ブロックチェーン/web3 領域のコンサルティング、プロダクト開発、アライアンス推進に従事。金融、製造、エンタメ等、様々な業界での事業戦略策定や技術活用の支援実績多数。海外メンバーファームや有力テック企業等、グローバルリレーションを活かしたサービス提供をリードし、海外事情にも精通している。INSEAD MBA、米国アクチュアリー会正会員。
河崎: 川口さんは Web3 研究会の運営に事務局として深く関わったとのことですが、報告書の中で特に強調したいポイントはありますか?
川口: ポイントは二つあると思っています。一つはテーマのカバレッジの広さです。どのような分野を扱おうかと考えたときに、NFT を対象としたデジタル資産だけでなく、DAO や DID(分散型 ID)など今後数年かけてどのように発展していくのかも含め議論しました。二つ目は規制を考える側の熱量です。例えば規制、ルールメイキングの考え方を「道」として、車を走らせたい、促進していきたい一方でアクシデントが起こらないように、どのように規制を設けておく必要があるのか、そのバランスが非常に難しく喧々諤々の議論がされています。両輪を見ながらバランスを考え報告書にまとめることができ、参照いただく価値のあるものになったと思います。
河﨑: 特に匿名のウォレットというのは非常に魅力的ではありますが懸念点も多く、政府はどのように考えているのでしょうか?
野崎: さまざまなアイデンティティやウォレットについて、どうトラストを付加していくのかという点ですね。政府がナショナルトラストアンカーとしてどう役割を果たしうるのかという。マイナンバーカードなどの電子認証システムにどう対応していくのかというのも今後の検討課題だと考えています。
河﨑: Web3 のカルチャーは政府の取り組みと相反するという批判もあると思いますが、政府はどのように考えていますか?
野崎: 政府もコミュニティの一員として、ステークホルダーとそれぞれの役割を果たしていくことが大切だと考えています。
河﨑: それぞれのステークホルダーが共同して進めていくことが Web3 の世界では重要だと思いますが、そこが難しいですよね。
野崎: まず、グローバルでは 3 年前から「BGIN(Blockchain Governance Initiative Network)」が立ち上がりました。そこではオンライン・リアルでブロックチェーンをめぐる諸課題についてアカデミアや政府、さまざまな人が集まって議論するという場があります。2つ目が、Web3 研究会で DAO を創生し、そのコミュニティを使ってさまざまなコミュニケーションを取るという取り組みを始めたところです。
河﨑: 最後に、今回のテーマについてみなさんから一言お願いします。
川口: Web3 やブロックチェーンの世界観というのは、新たな技術に熱狂して人が集まってくるという理念が先導していったフェーズから、今は社会実装に近付いています。ここからどう普及していくのかマーケット・インの考え方が必要だと思います。日本は整備された規制体系が既にあり、行政が非常に前向きなので、他の国と比べても唯一無二。すごく可能性を感じています。
岸井: KOKYO NFT の取り組みで今回は観光文脈で話をしてきましたが、一番のゴールはデジタル住民票だと考えています。デジタル上のパスポートのようなものを国内外の方々に唯一無二の証明として持ってほしい。そこで NFT を活用していきたいですが、なかなか難しい現状というのが課題だと感じています。
高橋: NFT や Web3 というとデジタル空間にこもっているような印象を抱く方も多いですが、我々が取り組んだプロジェクトは、最終的にリアルな場所やフィジカルなコミュニケーションなどに新しいテクノロジーを価値として持ってくるようなチャレンジをしています。
石井: デジタルとフィジカルそれぞれのサービスやコミュニケーションをつなげられるのがブロックチェーンの役割かもしれませんね。
日本企業の特徴は徹底した品質管理だと思ってます。また人材の流動性も低く、スキルの継承やセキュリティ面での問題も発生しにくいので、ブロックチェーン導入に対する切実なニーズが薄いという側面があります。対して海外ではこれらの課題が深刻であるため、ブロックチェーン導入が進んでいるという現状があるかなと。
裏を返せば、日本企業が必要とするレベルでのデータの分散管理や共有がブロックチェーンで確立されれば、それは全世界で求められるソリューションになるかもれませんね。